酒蔵で二年間の熟成を経たまろやかなコクと旨み
富久錦といえば、「インターナショナルサケコンテスト」で最高金賞を受賞したことでも知られる、今注目の実力派蔵ですが、その他にもワインのような低アルコール酒「Fu.」やライスエキスパワーを入れた「米米酒」など、従来の日本酒の常識を覆した商品を発表したりと、なにかと話題の蔵元です。
純米酒宣言からはや20年近くが経とうとしていますが、蔵元の姿勢は一貫してぶれることなく、純米にこだわり地元産の米にこだわり、そして素材からよいものを育て上げるという地元農家と二人三脚の品質へのこだわりを貫いています。
そのこだわりの蔵元の中が、人気の純米酒で昨年秋の季節商材として初めて発売したのが、今回ご紹介する「富久錦 純米 芳醇」。
酒蔵の中で2年間低温貯蔵して熟成させたものを、炭濾過せず、なんと原酒のまま瓶詰した商品です。 熟成した純米酒のコク・まろやかさはもちろんのことですが、原酒ならではの旨みがあるのにどこかさらりとしたこの感じ、不思議です。
くどさはなく、優しい旨みがうまくまとまっている、そんな印象。炭濾過していないとは思えないほど完成度が高いお酒です。
フレッシュでいきいきとした原酒を楽しみたい人向けというよりは、いつものお酒よりもっと旨みを感じられるお酒が飲みたい、でも辛口やくどいお酒は嫌という方、原酒はちょっとしんどいなあという方にお勧めです。
-味わいの特徴~ 「無濾過」とは~ -
ちなみに炭濾過というのは、日本酒造りの過程で発酵が終わったもろみを絞ったあと、不純物を取り除く工程のことです。
搾り終わった直後の日本酒は、まだうっすらと白く濁っており通常はこの濁り成分(オリ)を沈殿させて取り除きます。 それでもまだ不純物や色素が残っているので、フィルターで漉したり、炭に不純物を付着させてさらに取り除きます。
このとき、不純物ばかりでなく旨み成分も一緒に取り除かれてしまうことがあるので、上手にしないとせっかくのいい出来だった酒が濾過作業で何の旨みも特徴もない失敗作になってしまうこともあります。
まさに日本酒造りの最後で最重要な工程、女性に例えるならば、ドレスアップの後の最終メイクといったところでしょうか。
逆に言えば、前工程までがイマイチでも、この濾過具合が上手であれば美味しいお酒になることだってあるのです。 しかし無濾過で出すということは、すっぴんと同じでよほど造りに自信がないと目も当てられません。蔵元によっては、自信以前の問題で無濾過を出さないポリシーを持っているところもあります。
丁寧に造られた育ちの良さを感じられるのが、無濾過であり、丁寧に造ったからこそ可能なスタイルとも言えます。 旨みを取り除いていないのですから、旨みが強いのは当たりまえです。
濃いさと熟成された落着きある風味を、ぜひお楽しみ下さい。
冷でするりと、燗でさらにまろやかに。 脂ののった焼き鯖寿司や高知風ににんにくスライスを乗せたかつおのタタキなんかもいいですね。
また香りの強いものでも受け止める力量のあるお酒ですから、燗にして牡丹鍋やみそおでんなどにも合いそうです。